郁子.Armandiのシカゴ便り

Vol.Y(9月9日)


★ マテュー・デュフォーのこと
2001/9/9
大阪市音楽団友の会「市音タイムズ」第122号より


シカゴマラソンに走りに来ていた夏木文吉氏(夏木フルート)と

シカゴシンフォニーは創立110年を迎えるアメリカでも歴史の長い、由緒あるオーケストラである。数々の名盤を一緒に残したライナー・ジュリアーニ、そしてショルティなどを経て、今はダニエル・バレンボイムが総監督を務めている。
シカゴシンフォニーと言えば「世界最高の金管セクション」と言われるほど金管セクションが充実していることで有名で、黄金時代を築いたトランペットのハーセスさんなどは在籍50年以上で未だに現役として吹いている。

しかしながらシカゴに引っ越してから(今年で5年目になる)何度もオーケストラホールには足を運んでいるが、「素晴らしい!」と感動を覚えて家に帰ったことはまずない。
その上大阪にいるときのように「がっかりやったな、あの演奏」とか「もうちょっとロマンチックにやって欲しかったな」などと一緒に行ったメンバーに本音で話せず、かといって誉めることもできず、コンサート後本来おしゃべりの私は欲求不満に陥ってしまう。
というのもシカゴの人はこのオケを野球のカブス、バスケットのブルス同様異常なほどに誇りにしており、私が悪口を言おうものならもうコテンパンに言い返されるのを知っているからだ。うちのダンナもその一人で、彼は小さいときからアーノルド・ジェイコブスという黄金時代のメンバーについてチューバを勉強したので、私がコンサートの批判などをしようものなら「お前は全然音楽がわかっていない」などと真っ赤な顔で説教されてしまうのである。

しかし99年の9月からこの欲求不満がいくらか解消した。
というのも素晴らしい主席フルート奏者が入団したからである。それが現在28歳のフランスから来たマテュー・デュフォーである。
彼が入団してシカゴシンフォニーの音は変わった(と私は信じている。もちろん異論のある人も多いと思いますが…)。主席フルートが変わるだけでこんなに違うものかとビックリする位に変わったのである。
とにかく演奏に「音楽」(ファンタジーと言い換えてもいいかもしれない)があるので聞いていてとても楽しめる。
その上男前!!初めて彼を聞いたその夜、楽屋前で待ち伏せして電話番号を聞き出すのに成功、すぐ「The Flute」という雑誌の編集長に電話してインタビュー記事のOKをもらって彼をジャパニーズレストランに誘ったのは全てこの男前と二人で食事をしたいという下心からだった。

 こんなに若くして大オーケストラの首席奏者というポストに就く実力者なのに全然威張ったところもなく、アメリカで良く言われる「down to earth」(「腰が低い」上、慇懃無礼な感じではない)という言葉にピッタリの好青年で、焼き鳥などを食べながら話が弾む。
フルートをやっていなくてもその道できっと成功したに違いないと思わせる器用さと意志の強さを感じる話しぶり、色々な例え話を交えて何とか自分の気持ちにピッタリとした言葉や表現を探そうとする真摯な態度。
うーん、私がもう少し若ければ本気で惚れていたでしょう…。

ヨーロッパにあるオケのような二人首席奏者を置くシステムはここにはないので彼は超多忙なスケジュールをこなしながら学生を教え、ソロ活動もさかんにやっている。もちろんシカゴシンフォニーをバックにコンチェルトを吹くこともある。

20世紀の作曲家の作品ばかりを演奏するシリーズではBerioのSequenzaという難解で超絶技巧のソロの曲を彼らしく音楽的に演奏した。
上手な人が演奏するとどんなフレーズも意味を持って聞こえるので不思議だ。

彼のソロ演奏を是非日本のたくさんの人に聴いてもらいたい。男前だからじゃないですよ。ため息が出るような素敵な演奏をしてくれるからです。

彼のお陰でダンナとコンサートに行っても帰りにケンカしないようになった。
「あのホルンのソロにフルートが入ってきて絡むとこ、良かったなあ・・ため息でそうやったわ」「うん、クレベンジャー(ホルンの主席奏者で私も大好き)はやっぱりうまいやろう」「それにしても色気のある音やなあ」「そらそうや、あの人より上手い人はおらへんで」…と実は話はずれていても……。


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